COLUM

 

ヴォイス•トレーニングで美しく健康に

 

〜声を出すことは、心の基礎体力をつけること〜

 

 

 

 

最近「元気をもらった」「パワーをもらった」「癒された」という言葉をよく耳にするようになりました。 元 気やパワーは自分の内側から沸き上るもので、人間は自分自身を癒す自然治癒力を持っています。しかしながら、昨今はIT化が進み、仕事でもプライベートで もコンピュータや携帯電話に向かう時間が長い、一人暮らしのため話し相手がいないなど、人同士が言葉を交わす機会が激減しています。そのため、実際に声を 出すことが少なくなり、元気や癒しを“外注”しなければならない現状になっていると思われます。

 

 

声を使わなくなると、筋肉である声帯はどんどん退化してしまいます。そのため、たまに声を出すと「こもりがちな声」や「何度も聞き返される小さな声」になってしまうのです。 

 

声は、肺から出た息が声帯を振動させ、口腔や鼻腔などの共鳴器官で響くものです。その声は鼻を通り、額からフワっと出る感じがするので、私はこの声を“暖房ラインの声”と呼んでいます。一方、共鳴腔を通らず喉だけで出している音は、胸より下に落ちて床を這っているような感じがするので“冷房ラインの声”と呼んでいます。

 

 

 

自分の”冷房ラインの声”を聞いて、知らず知らずのうちに自分の心が元気をなくしているのではないでしょうか。また、声を出す機会が少ないと呼吸が充分ではなくなるので、自律神経のバランスを崩すことにもなり、健康面•精神面において問題が生じることも考えられます。

 

声を出すことはとても大切なことなのですが、残念ながらそのことについてはあまり関心を持たれていないように思います。

 

 

ヴォイス•トレーニングにおける、発声時に深い呼吸(腹式呼吸)をすることで、自律神経の調整が可能になり、脳に良い影響を与えることができます。また、表情筋が鍛えられますので、顔が引き締まると同時に、血行も良くなり肌の艶が増してくるというオマケまで付いてきます。

 

ヴォイス•トレーニングは、歌手や声を使う職業の人だけの特別な訓練ではなく、心身の健康維持のため誰にでも役立つトレーニングです。しっかり呼吸をして響く声を出せば、身体も心も元気になり、毎日をポジティブ•マインドで過ごすことができるのです。

 

 

“暖房ラインの声”で、明るく元気にあいさつや話ができると、自分自身はもちろんのこと、周りの人もとても気持ち良く、イキイキと過ごせるようになります。

 

みんなが明るく元気な声で話をすることができれば、社会全体が明るく元気になるのではないでしょうか。

 

(バイ デイリーサンNY 2011年11月5日号にて掲載)


 

 

 





発声法で美しく健康に

〜磯野久仁子のヴォイス・クリニック〜


 

最終回:オールマイティーの美声を手に入れる



みなさん、こんにちは。
私のクライアントには、「声が小さい」「声に自信がない」という理由でトレーニングを受け始める方が多くいらっしゃいます。
「プレゼンテーションに説得力を持たせるために、声を磨きたい」という方も。

話す際の心理学的な要素に関しては、私もさほど詳しくありませんが、こと声に関しては文字通り「声を大にして」申し上げたいことがあります。強調したいのは、「自己流の訓練は、リスクが大きい」という点です。

世の中には発声のメソッドが数多く存在し、どれも根拠があるとは思うのですが、「◯◯に効果あり」という理由だけで、その部分だけ切り取って実践してしまうと、かえって逆効果になることも珍しくありません。

つい先日も、クライアントの一人が、インターネット上で、「プレゼン」「声」で検索した結果、自宅で出来る発声エクササイズを見つけたと喜んでいました。
しかし、それは、胸部を使って声を響かせるというもので、声の届く範囲が狭く限られたメソッドだったのです。
せいぜい小さな会議室で声が通るくらいにはなるかもしれませんが、それも、そのメソッドを正しく使った場合の話です。

また、好きなジャンルの歌の訓練をしたいという理由で、最初から、例えばジャズならジャズの歌唱法だけを追求する方もいますが、こういった選択をした場合、数年後に「つぶしがきかない」、「キャリアが広がらない」などの壁にぶち当たるケースも多いです。
こういった理由から、私は、発声の基礎固めには、歌、スピーチ問わず、クラシックのトレーニングメソッドが最適だと考えています。アスリートがトータルな健康維持に気を配るように、声も「部分トレーニング」ではなく、全体的な基礎固めが重要です。
皆さんも、ご自分の声の魅力を活かして、人を惹き付けてみませんか?
ご愛読、誠にありがとうございました。

(デイリーサンNY 2009年9月3日号にて掲載)



第11回:プレゼン力とセルフイメージ


こんにちは。
皆さんは、「プレゼンテーション」が得意ですか?
今回は、説得力とセルフイメージ、声の三位一体の関係について、お話します。

声にまつわる、興味深い実験があります。
声が通るようになるとどうなるかという実験で、「大丈夫ですか?」というセリフを、胸式呼吸を使った発声と、腹式呼吸による発声とで、交互に実演して見せ、それを被験者が目を閉じた状態で聞くというものです。
結果は、「自分のことを気にかけてくれている」と被験者が感じるのは、断然、腹式呼吸を使った声だったそうです。

声が通るということは、相手の意識に声が「届く」ということだと思います。
そして、この「声が届く」というのが、「プレゼン力=説得力」を上げるキーポイントと言えるでしょう。

また、実験結果のように、声が届くことにより、相手の中に安心感が生まれ、信頼関係にも繋がるのではないでしょうか?
さらに、話すことで、こうしたコミュニケーションにおける成功体験が積み重なれば、セルフイメージもどんどん良い方へと変化して行くでしょう。

ところで、日本にある人間科学学術院の保崎則雄教授は、メディアのインタビューで、プレゼンテーションを成功させるためには、まず腹式呼吸ありき。
そして、姿勢、発声などが複合的に交わるという内容のことを話しています。つまり、「話し方/言葉遣い」よりも、正しい腹式呼吸(発声)が大切ということです。
姿勢や仕草が重要視される傾向もありますが、正しい姿勢も結局は呼吸によって軸が整うことで生まれるようです。

尚、心理学の分野でも頻繁に使われる言葉「あがり症」とは、「緊張から上体があがる」ことから、このように呼ばれるようになったそうです。ですから、緊張しがちな場面では、上体を下ろすようなイメージで臨んでみて下さい。

* 次回(最終回)は、失敗しない発声法選びです。
(デイリーサンNY 2009年8月20日号にて掲載)



第10回:声を遠くに運ぶヒント


みなさん、こんにちは。今日は声をよく通すコツについてお話したいと思います。
私は、声楽家になる前は、証券会社にいたのですが、金融取引の場では、「声が通ったもん勝ち」のような一面もありましたので、声楽のテクニックは大いに役立ちました。声を運ぶには、「顔」にまつわるコツがあります。

まず、発声における口の形は、「カモノハシ」が基本です。
これは、私の声楽の教授、Mannes College of Musicのロイス・ ウィンター教授のメソッドで、先生から「口をカモノハシ(メガホンのようなくちばしの動物)のように前に伸ばして使うと、声を前に持って来ることができ る」と指導を受け、私が「カモノハシ・テクニック」と名付けました。
口の周りに手をあてがうと、声が遠くまで届きやすいですよね。その状態を、口腔全体で作り出すというものです。

口の中に空気をいっぱい入れた状態、にらめっこの「アップップ」の顔をして下さい。上唇は歯茎から浮いていますよね。この状態を保って発声します。特に英 語を話す時は、このように鼻の下の筋肉を起こした状態で話すと、発音がてきめんに良くなります。「イ」と「エ」で口を横に引きすぎないようにすると、上品 な響きになります。
唇だけ突き出すと、タコになってしまいますので、ご注意を!

目は、眉間が下がると声が響かないので、あくびの時のように眉を上げて、リラックスして下さい。
呼吸ですが、肺は360度膨らみますので、腹式呼吸でもおなかを前に突き出すだけでなく、背中も使って、肺全体を膨張させましょう。

話す際は、まず息を吸って、吸った分だけ話す、息が切れたら、また吸う、を繰り返します。声は、顔の真ん前ではなく、鼻の奥(わさびをツーンと感じるところ)から額を通して、遠くに運ぶ感じで、発してみて下さい。

* 次回は、声とセルフイメージについてです。
(デイリーサンNY 2009年8月6日号にて掲載)



第9回:メールで首周りがシワシワに?


こんにちは。磯野久仁子です。

最近の若い方には、声量がなく低くくぐもった声が多いのに驚きます。
日本人の中で、よく通る「キンキン声(女性)」「野太い声(男性)」を耳にする機会は格段に減っています。
こうした現象は、インターネット(携帯メール)の普及と無関係ではないと思っています。

長年連れ添った配偶者を亡くして意気消沈されている方は、声もすっかりしぼんだ様子になってしまいます。しかし、声に生気がなくなるのには、精神的ダメー ジもさることながら、近親者の死を境に、話す機会が激減するという側面もあります。お年寄りの場合は、配偶者が唯一の同居者であることも少なくないですよ ね。
ですから、妻または夫に先立たれると、一日中声を発しない日が増える=声帯が急速に衰えるとなるわけです。ですから、気力を取り戻した後でも、声だけが老け込んだままという方は多くいらっしゃいます。

実は、声帯というのは、人体で最も老化しにくい組織なのです。声に限って言えば、年のせいで出にくくなるというケースは皆無に近いでしょう。
たいていは、年とともに声を使わなくなった、無駄な力みが喉にきているなど、年齢以外の理由があります。年齢に影響されないということは、若くても使わないと衰えるということです。
ヴォイストレーニングで、口元、あご、首の筋肉も引き締めて、若々しい声とシルエットを保ちましょう!

余談ですが、女性オペラ歌手には、首筋がシワシワの方が少ないようです。
かつては太めな方が多かった声楽界ですが、コンサートの模様がDVDとして販売される昨今、ビジュアルも重要視される傾向を受け、オペラ歌手もスリム化し ています。痩せていても、彼女たちのデコルテは、弾力がありそうで、とても美しいです。正しい発声法で鍛えられている証拠と言えるでしょう。

* 次回は、声を運ぶためのヒントです。
(デイリーサンNY 2009年7月23日号にて掲載)



第8回:ヴォイス・スタイリストの時代


こんにちは。今回は、耳慣れない疾患「音声障害」について、少し触れてみたいと思います。
「音声障害」とは、発声の仕方が不自然であるがために、喉を使い続けるうちに、声帯が極度に疲れたり、やがてはポリープなどが出来たりして声が出なくなるという症状です。

私が日本で定期的に喉のメンテナンスをお願いしている、耳鼻咽喉科の「文珠(もんじゅ)先生」という方がいらっしゃるのですが、この方は、これまで長きに渡って音声障害に関わって来られた医師です。
文珠先生のクリニックには、通常の耳鼻咽喉科の他に、声楽家、アナウンサ−、教師、営業マンなど、仕事で声(喉)を使う方を対象とした「音声外来」が併設されており、仕事との並行が可能な治療を提供しています。

先生がいつも最初に指導することは、「息を吸った分だけを話す、苦しくなったらまた息を吸って、その分だけ話す」ということです。
発声の矯正だけで、ポリープが治るケースもあるので、治療はその後で考慮するのだとか。

もう一つ、先生が強調されていることは、日本人は声に対して非常に関心が薄いという点です。
アメリカでは、歌う人だけでなく、大統領から企業の役員まで、声が職業において重要な役割を果たす人には、ほぼ例外なく、専属のヴォイス・トレーナーがついて、「あなたにはこういう発声、こういう話し方が最適です」とアドバイスしています。
今後は、昇進や転職を狙う人達まで、この分野でのトレーニングは広まって行くでしょう。

営業マンなどが、信頼度と説得力の向上を目指して、イメージコンサルティングを利用したりするように、声も活かし方を勉強する機会が必要です。
まさに、声のスタイリング!「ヴォイス・スタイリスト」の有無が、売り上げを左右する という時代が、迫っているのではないでしょうか。

* 次回は、声帯年齢と美容についてです。
(デイリーサンNY 7月9日号にて掲載)



第7回:声のハリが肌の色艶を生む


こんにちは。今回は、ヴォイス・トレーニングによる若返り効果をご紹介します。
皆さんの中で、コーラス・サークルに参加している人(特に日本人女性)をご存知の方はいらっしゃいますか?
コーラスで歌っていらっしゃる方には、肌の色艶が良く、若々しいハリのある声をお持ちの方が、多く見受けられます。実はこれ、趣味をのびのびと楽しんでいるせいもあるかもしれませんが、発声がかなり貢献しているのもまた事実なのです。

まず、これまでにも解説してきましたが、発声の際に用いる腹式呼吸は、交感神経と副交感神経のバランスを整え、自律神経の安定にとても役立ちます。
自律神経は内臓の働きを司っていますので、呼吸によって促進された内側の健康美が外側にも出ると考えられます。

次に挙げられるのは、発声訓練に伴い表情筋も鍛えられるという、美容面の効能で、これは、女性の間で人気のあるフェイス・ヨガにも繋がるものです。
日本語は、口周りのほんの一部の筋肉を使うだけで話せてしまう言語ですので、日本人で特に発声/発音のトレーニングを受けていない人は、口周りの筋肉が早くから衰えることが多いのが実情です。
こうした筋肉は、実は、赤ちゃんの頃は、ミルクを飲む時に使っているのですが、歯が生えて日本語を話すようになると、次第に使わなくなってしまいます。

対照的に、喉を締めずに腹式呼吸を使って発声すると、唇の動きだけに頼ることなく、上あごや頬全体の筋肉も連動するため、顔全体がバランス良くシェイプアップされます。
アメリカの女優さんで、特にジュリア・ロバーツ、キャメロン・ディアスなどは、口の周りの筋肉を満遍なく使っているのがよく分かります。
地声で大笑いをしている「おばさん」よりも、表情豊かでツヤとハリのある「妙齢の女性」でいたいものですね。

*次回は、「音声障害」についてです。
(デイリーサンNY 2009年6月25日号掲載)



第6回:発声訓練で九死に一生?


皆さん、こんにちは。すっかり夏ですね!
さて、今日は発声訓練がもたらす、意外と知られていない効能をご紹介します。
それは「窒息死、肺炎の予防」です。ちょっと想像がつきにくいかも知れませんが、実は、喉周辺の筋肉と高齢者の健康(寿命?)には、密接な関係があるのです。
発声法で最も鍛えられるのは、言うまでもなく声帯を囲む喉周辺の筋肉です。複雑に重なり合ったこれらの筋肉は、発声だけでなく、食物を飲み込む際の嚥下運動や、咳をする時に大いに活躍してくれます。

毎年どこかで、お年寄りが喉にお餅を詰まらせて窒息死するというニュースが必ずありますよね。お餅を喉に詰まらせるのは、決してお年寄りだけではないはずなのに、窒息死してしまうのは圧倒的にご高齢の方です。
ということは、こうしたアクシデントの際、勢いよく咳をして吐き出すことで、気道を確保できるかどうかが、明暗の分かれ道であるとも言えるわけです。

また、喉の筋肉が弱って来ると、食べ物の飲み込みがうまくいかないことが多くなります。
そこでむせるわけですが、咳が弱々しいと、食べ物の一部が気管支に入り込み、そこで雑菌が繁殖し炎症を起こし、そこから肺炎に繋がるケースも少なくありません。
このように、発声練習は高齢者の健康維持の一旦を担っているのですよ!

腹式呼吸による発声は、地声の音域に制限されない伸びと深みのある声をつくり出します。
顔立ちが若くても、話すと一気に老けた印象になる人がたまにいらっしゃいますが、このような方は、声帯と周辺の筋力が衰えていて、胸式呼吸であえぐように発声していることが多いです。
「老け声」を解消して、第一印象を若返らせるのに、ヴォイストレーニングはとても効果的です。日常的に運動している人の身のこなしが、そうでない人よりも余裕があって、若々しく美しいのに似ていますね。

* 次回は、発声練習と表情筋についてです。
(デイリーサンNY 2009年6月11日号にて掲載)



第5回:美容健康の友、腹式呼吸



こんにちは!皆さん日焼け止めの買いだめは、もう済まされましたか?
今日は、腹式呼吸と胸式呼吸の違いについて、お話したいと思います。
ヴォイストレーニングの初回レッスンに来て下さった方からの感想で、最も多いのは、「一時間も声を出し続けているのに、喉が全然痛くならない!」というものです。腹式呼吸で喉や胸に負担がかからない状態を体感されているようです。

腹式呼吸と胸式呼吸の違いは、腹式呼吸が横隔膜の上下運動によって息を吸い込むのに対して、胸式呼吸は、肋骨にある筋肉の収縮によって、胸部を広げて行う点です。
腹式呼吸ではお腹が、胸式では胸が膨らむのはこのためです。ちなみに、ヨガは腹式呼吸、ピラティスは胸式呼吸とするメソッドもあるようです。

いずれも、肺に空気が入ることに変わりはないのですが、発声において、胸式呼吸には弊害があります。
まず、胸を上げることで息を吸ってしまうと、喉に不要な力がかかってしまう(=力む)ことです。結果、声が「響いている」のではなく、「鳴っている」に過ぎず、長く続けると、その負担によって声帯が硬化してしまいます。これが慢性化すると、ポリープが出来やすくなります。

胸式呼吸は、緊張を促す交感神経を呼び覚ます呼吸で、いわば、「攻撃態勢」の呼吸です。
胸式呼吸ばかりだとリラックス出来ず、怒りっぽくなり、さらに胸式呼吸に偏るという悪循環に陥ってしまいます。
心身のリラックスには、副交感神経を刺激する腹式呼吸が良いということです。

お相撲さんがぶつかり合うときは、巨体同士による強いインパクトの際の力みが、胸部及び声帯への負担となり、独特のハスキー声の一因となっていることが、医学研究で明らかになっています。
お相撲さんの中でも歌のうまい人は、普段から腹式呼吸なのではないでしょうか?

腹式呼吸は、お腹ポッコリの改善にも役立つそうですよ!是非、試してみて下さい。

* 次回は、発声と高齢者の健康についてです。
(デイリーサンNY 2009年5月29日号にて掲載)



第4回:「Tゾーン」で幸せが決まる?



こんにちは。今回は発声の基本中の基本、呼吸のための姿勢についてお話します。
深く呼吸するには、まずリラックスすることが大切です。発声練習となると、とかく足を肩幅に開いて、後ろで手を組む方が多いですが、このような軍隊式の 「休め」の姿勢は、背面を束縛してしまいます。足はあまり開きすぎず、手は脇を閉めずに体の横に自然に下ろした状態だと、無理なく呼吸が出来ます。

呼吸の練習には、仰向けに寝転がって膝を立てた状態が理想のポジションです。
膝を立てると、腰が浮くのを防ぐことが出来ます。呼吸は、鼻から吸うと声を出すのに時間がかかってしまいますので、「口から吸う」が基本です。

しかし、普段の会話を寝転んでするわけにもいかないですよね。
そこで、立ったままリラックスするコツをご紹介します。
まず、両腕を上げて思いっきり伸びをします。そしたら、その腕をストンと下に落として下さい。
これだけで、胸や喉に力の入っていない良いスタンスが出来上がります。
姿勢を良くしようと、「気をつけ」をすると、かえって不自然に反り返ってしまい、声が出にくくなりますし、腰にも良くありません。

ところで、皆さん。顔のTゾーンは多くの方がご存知かもしれませんが、体にもTゾーンがあるのですよ。
私が発声の先生から教わったそのTゾーンとは、両胸を横線で結び、その中央からヘソの下にかけて、縦線を一本引き下ろした逆三角エリアです。
彼女曰く、「Tラインをキレイに見せないと、欲しいものは何も手に入りませんよ」だそうです。

確かに、目標を確実に達成する人には、左右の肩の高さが同じ(胸の線が水平)で、前かがみになったりせず(縦線が湾曲しない)、自然かつ堂々としたたたずまいの人が多いような気がします。
皆さんも、この「幸せのTゾーン」のを、是非意識してみて下さい。

* 次回は、胸式呼吸と喉の力みの悪影響についてです。
(デイリーサンNY 2009年5月15日号にて掲載)



第3回:呼吸と発声、健康の関係



こんにちは。
今回は、正しい発声に欠かせない、「腹式呼吸」の効能についてお話します。
私たちの体調や精神状態は、末梢神経の一つである「自律神経」の働きに大きく左右されます。
自律神経は中枢神経と内臓との間の橋渡し役で、すべての臓器をコントロールする重要な神経です。この自律神経の安定に大きく関わっているのが呼吸です。吸 うと交感神経が、吐くと副交感神経が刺激されます。よって、「吸う/吐く」を同じボリュームに保つことで、両者間のバランスは安定します。

また、腹式呼吸には、体があたたまる、集中力が高まる、悲観的な感情が軽減するなど、ヨガの効能にも似たメリットがあります。
規則正しい呼吸は、体内で停滞した血液や気などの循環にも役立つため、血行促進にも繋がります。

ここで、呼吸のアンバランスの例をご紹介します。
怒りっぽい人には、吸気に対して呼気が少ないという共通点が見られます。
拳を振り上げる瞬間や、かっとして言葉を返す直前というのは、大きく息を吸い込んで一瞬吐くのを止めますよね。自分は怒りっぽい、パニックになりやすいと感じたら、息を吐ききる練習をしてみて下さい。心が静まりますよ。
反対に、息を吐いてばかりのタイプには、鬱気味の人が多いようです。元気のない時は、ため息ばかり出ますよね。落ち込みがちな人は、肺一杯に息を吸い込むことを心がけてみて下さい。

ちなみに、発声法の呼吸は、口で息を吸うという点でヨガの呼吸と異なります。
鼻から吸い込むと、息が体の奥まで一旦取り込まれてしまうので、すぐに発声することが困難です。
発声練習では、すぐ声にして前に返せるよう、息は口から吸います。
* 次回は、発声の正しい姿勢について、お話します。

(デイリーサンNY 2009年4月30日号にて掲載)



第2回:日本語スピーチの弱点「こもり声」



こんにちは。ニューヨークの短い春がやって来ました。
季節の変わり目を機に、声も衣替えしませんか?
今回は、日本語独特の声の癖についてお話したいと思います。

皆さんは、学校や職場のディスカッションで、押され気味になった経験はありませんか?
実は、これは文化の違いもさることながら、発声の違いも大きく影響しているのです。

発声において、日本語には、「こもり声」という大きな弱点があります。
原因の一つとして、日本語の周波数が挙げられます。声(音)は周波として耳に届きますが、アメリカ英語の平均周波数は、だいたい1000〜4000ヘルツ。
一方、日本語は、125〜1500ヘルツの間です。(ちなみに、ドイツ語も日本語と似た周波数の言語です。)ですから、日本語との周波数の共有範囲がほと んどない英語のネイティブスピーカーにとって、日本人の話し声というのは、くぐもっていて、非常に聞き取りにくいのです。
また、日本語は英語に比べ、腹式呼吸をあまり使用しない言語でもあります。
「話の途中で割り込まれる」、「英語は上手いほうなのに、何度も聞き返される」という人は、発音よりも、発声の違いと周波数のズレが壁になっていることが考えられます。

日本人の結婚式でのスピーチなどが、内容的には興味深いものでも、往々にして面白みに欠けるのは、日本語の話し言葉の周波数を、広い会場でのスピーチにそのまま用いているめ、聴覚で捉えにくいことが原因の一つだと思います。

さらに、腹式呼吸に慣れていないため、地声を張り上げてしまいがちです。
結果、本来ならば、呼気によって共鳴すべき声帯が、強くこすり合わせられることになり、ポリープが出来やすくなります。

ということで、次回は、地声とこもり声から脱出して、「通る声」にするための基本を紹介します。
(デイリーサンNY 2009年4月16日号にて掲載)



第1回:日本語独特の「地声」と声の悩み



 

みなさん、こんにちは!声楽家/ボイストレーナーの磯野久仁子です。
この度、発声法を利用した心身の健康促進という視点で、コラムを書かせて頂くこととなりました。発声練習は、歌の上達だけでなく、パフォーマンス力アップなど社会面でのメリットや、美容/健康面での効能など、意外と知られていない側面がたくさんあります。
健康法としての発声法を、声に関する豆知識なども併せて、このコラムでご紹介できれば幸いです。

さて、初回はまず、日本人に多い声の特徴についての説明から始めたいと思います。
日本人(日本で生まれ育って、日本語を母国語とする人)の発声の特徴として最も顕著なのは、「地声」です。地声というのは、簡単に言うと、息をあまり使わず、喉を締めた状態で力んだ声のことです。

日本のポップス歌手には、このタイプの発声がとても多くみられます。
前屈みになって力んで歌って(話して)いる割には、音域が狭く声量が少ない---これは、地声を発しているからなのです。しかし、裏声では、声にパワーがなくなってしまう…。
では、どの声を使うのが理想でしょうか?まず、「地声VS裏声」という認識を忘れましょう。
そして、次の実験を試してみて下さい。

いつもの話し声のまま、ドレミファ・・と音階を上がります。喉が苦しくなって力を抜かざるを得なくなりますよね。そうしたら、今度は「力の抜けた喉の状態 を保ったまま」、音階を降りて来て下さい。いかがですか?最初の地声の「ド」よりも、リラックスした「ド」のほうが、響きのある声になっていませんか?

同じ音で同じ声帯なのに、こんなに差が出るのです!
普段の話し声にも、これが活かされたら、会話やスピーチが楽しくなりますし、セルフイメージも大きく変わってきますよ!

* 次回は、日本語特有の周波数と声の通りについてお話します。
(デイリーサンNY 2009年4月2日号にて掲載)

The Art of Singing,New York